(1)調査概要
人口減少と少子高齢化が進み、多様な地域社会のニーズに対応していくために、低下したコミュニティ機能を取り戻し、市民との協働による地域社会づくりが求められる中、狭山市長は、「元気な狭山をみんなでつくる」をスローガンに掲げ、市民自らがまちづくりを進めるというコンセプトの元、市内8区に地区センターを設けてまちづくり推進会議を設置し、地域の特性を生かした市民主導によるまちづくり活動が推進されてきた。その中で、市長は、第2期目の選挙の公約として、次に必要なものとして、地域のまちづくりを担う人材育成を進めていくことを掲げた。つまり、狭山元気大学構想は、市長肝いりの事業としてスタートした。
狭山元気大学の設立目的は、行政市民協働のまちづくりを推進していくための人材育成と、その人材を実際にまちづくりに活かしていく仕組みづくりである。平成20年より、(仮称)狭山元気大学開設プラン市民検討委員会を設置して設立に向けて検討を重ね、平成22年に運営組織の立ち上げ、カリキュラム一部試行を経て平成23年より本格的にスタートした。平成24年には廃校となった小学校にキャンパスが設置された。
①人材育成機能として、実学・実践を重視した学びの提供を行っている。
②学びの成果を地域に生かす機能として、修了者に対して以下の事業を実施している。
(a) 人材バンク事業
(b) コーディネート業
(c )インキュベーション事業
(d)受講後の相談フォローアップ事業
市内在住、在勤、在学の16歳以上を対象としている。
また定員は30名。現在30歳~70歳の男女が学んでいる。
○学 科―以下の3学科を設置
①コミュニティ・ビジネス学科(起業を目指す人材を育成)
②ボランティアリーダー学科 (市民の主体的なボランティア活動を推進する人材を育成)
③協働サポーター学科 (行政との協働を担う人材を育成)
※それぞれの学科に専門コースを設けている。
○受講期間
12か月コミュニティ・ビジネス学科
6か月ボランティアリーダー学科、協働サポーター学科
○構 成
全学科共通科目、学科内共通科目、コース毎の専門科目を設置。
○受講日・講義時間
属性に合わせて開講。内容に応じて1コマ90~180分の範囲で柔軟に対応。
○特 徴
座学においても意見交換の時間をとり、実際に活動しているNPO団体への訪問調査や、ケーススタディ、グループワークなどアクティブ・ラーニングを授業全体に取り入れている。
○受講料
コースによって異なるが1万円~1万8千円
市内に立地する西部文理大学の元教授を学長とし、決定機関として運営委員会を設置している。そのもとに専門委員会を設置して、各コースの科目や講師、教材の手配をする。
事務局は、元気プラザ内に設置。狭山市役所より職員2名が出向している。カリキュラム運営業務(授業コーディネート、ファシリテート、講師手配等)は、元気大学修了生によって設立されたNPO法人が担う。
統廃合後の狭山台北小学校校舎を狭山元気プラザとして改設し、キャンパスを設置している。狭山元気プラザでは、狭山市民大学や狭山シニアコミュニティカレッジ、シルバー人材派遣センター他団体が施設を活用している。
廃校を活用した「狭山元気プラザ」
○施設設備
座学のための教室、実習のための教室(パソコン教室、調理室、周辺に農地の設置)、修了者のためのインキュベーション施設(事務所、パソコンルーム、印刷機器、製本機器の利用可)
西武文理大学と協定を結び、講師派遣やカリキュラム企画・実施の協力を得ている。また、訪問調査、講師派遣等で、社会福祉協議会、商工会議所、農協、NPO、企業との連携を進めているが、協定を結ぶまでには至っていない。
子育て支援や高齢者サービス提供事業の起業や、修了生同志でNPOを立ち上げて商店街活性化事業を実施、自主防犯、食育活動、障碍者支援活動、公共緑地の維持管理活動等について新たなボランティア組織の立ち上げなど、地域社会へ人材活用が促進されている。
平成26年より、市民大学、シニアコミュニティカレッジと発展的に統合し、受講生400名以上を抱える狭山市民大学として新たなスタートを切る。運営も、狭山市からNPO法人に委託され、民間運営されることとなる。
市役所職員へのヒアリングで、今後懸念していることとして、これまで元気大学では協働のまちづくりを担う人材育成を掲げてきが、市民大学に統合されることによって、その目的が薄れてしまうことを挙げていた。また、運営委託するNPO法人については、新たに立ち上げられた組織であり、安定的運営のためには、市のサポートが重要であることが指摘された。
全国で市民大学は設置されているが、協働型社会実現に向けての市民教育を実践しているものは少ない。また、大学と地域との連携による地域社会づくりを考えるとき、こうした地域に根差した組織体を地域連携のプラットフォームと捉えることによって多くの可能性を見出すことができる。これまでのように大学側が講座提供するだけではなく、実際に市民が地域づくりを学び活動を実践するとこに学生が参加し、まちづくりの実際を学ぶ、といった実践的大学教育のフィールドとして活用することが可能である。また、大学の知見を活用することもできる。これによって、地域側、大学側どちらにもメリットのある連携体制の構築の可能性が生まれる。今後も、狭山市の新たな市民大学の展開に注目していきたい。