本事業では、大学機能を京都府北部地域に移転させて活用できる仕組みの構築のため、仮想的な大学コンソーシアムの構築を目指している。今回は、その広域的大学連携による知の拠点づくりの先進的事例として、長野県飯田市に訪問調査を実施した。
大学のない飯田市では若者(人材)の流出が大きな課題となっているが、一方で、「環境モデル都市」や「南信州定住自立圏」など地域独自の地域経営や多様な主体による各種取組が全国モデルの先進事例として注目されており、「南信州・飯田フィールドスタディ」などを通じて多くの大学研究者や学生達が飯田市を訪れている。
その中で平成23年1月に設立された学輪IIDAは、「21世紀型の新しいアカデミーの機能や場をつくる」をコンセプトに、廃校となった高校を活用した大学拠点づくりなど、地域と連携して「飯田の豊かさを享受できる学術研究都市」を目指す様々な取り組みを進めてきた。
この度の訪問調査では、飯田市役所を訪問し、学輪IIDAの取り組みを中心に飯田市の大学連携事業モデルについてヒアリングを行い、また多様な主体による先進的取組について訪問調査を実施した。スケジュールは以下のとおりである。
(1)概要
人口減少と高齢化が著しい飯田市では、高校卒業と同時に約8割の若者が地域を離れ、将来的にも約4割の方しか帰ってこない現状があり、若者(人材)の流出が大きな課題となっている。一方で飯田は、日本の東西の中間点に位置する地理的条件や、「環境モデル都市」や「南信州定住自立圏」など地域独自の地域経営や多様な主体による各種取組が全国モデルの先進事例として注目されており、「南信州・飯田フィールドスタディ」などを通じて多くの大学研究者や学生達が飯田を訪れている。こうしたこれまで飯田と関係を深めてきた大学関係者等で、大学連携会議「学輪(がくりん)IIDA」が設立されるに至った。
飯田の大学連携の取組は、様々な大学が飯田と関係を持ち、飯田に集い、飯田を起点に専門的知見を地域に呼び込んでいこうとするものである。
年に一度、学輪IIDA全大会を開催し、大学教員とのネットワークづくりを進めており、複数大学の共同によるプロジェクト活動を実施している。プロジェクト事例は以下のとおりである。
①共有カリキュラム構築プロジェクト-飯田に関わってきた各大学、教員が持っている飯田の価値を集約・共有化し、それをもとにした「モデルカリキュラム」を作成する。具体的事例としては、大学教授による講義や指導・評価を、飯田における調査やワークショップ、農家民泊などを通じて行う「南信州ソーシャルキャピタル・フィールドスタディ」がある。
②飯田工業高校後利用プロジェクト-廃校となった飯田工業高校後利用について将来的な高等教育機関の設置も視野に入れた「教育研究施設」としての活用の可能性を検討している。
③「知のネットワーク」を活用した人材育成-学輪IIDAのネットワークを活用し、地域の中学生や高校生を対象に大学教授が出前講義を行い、本物の大学講義に触れる機会を作り、より豊かな人間力育成につなげることを目指している。
「地域側・新たな気づきや地域の価値を認識する鏡効果がある」
「大学側・実践の学びの場が確保できる」
Q1:バーチャルではない大学連携拠点を作る場合、管理の問題がでてくるが、飯田市ではどう考えているか?
A1:県には考えはなく、飯田市が引き継いでいく必要があるが、現実的な話にはなっていない。また、高校も大きいので部屋を埋めるのは難しい。
Q2:地域企業があると思うが、企業へのインターンシップというのはどうか?
A2:今はないが考え方はある。三遠南州では、企業、大学、地域の円卓会議の結果、2か月間のインターンシップは必要との要望がでている。雇用する形態でやりたいと考えている。
Q3:なぜ飯田に集まってくるのか?
A3:教員からは、人に魅力があるから。ここに来れば、きっちりと人材育成がなされている。という意見が多く聞かれる。市としては、それをきちっと把握し、発信しなければならない。
Q4:学輪IIDAへの参加の位置づけは?連携協定を結んでいるのかどうか。
A4:全て個人の先生が加盟している
Q5:県や周辺の自治体との連携について
A5:県とは一切ない。周辺の町村との連携もない(先生からは必要といわれている)が協定を結んでいる
Q6:飯田市にかかわっていた学生が移り住んできた学生は多いか?
A6:フィールドスタディに来た人が市役所に入る人もいる。農家民泊などでIターンしてくる人もいる。
飯田市ヒアリングの様子
(1)概要
地域活性化のための観光振興を模索していた飯田市では、滞在型観光の取り組みが必要であるということから、修学旅行の誘致のため、体験学習プログラムの開発やツアーを企画・コーディネートする株式会社を設立することとなった。設立に際しては、3年後に民間譲渡するという約束で、飯田市や周辺自治体が出資して設立した。地域の農家や芸術家など多様なステークホルダーと連携した教育プログラムや農家民泊が評判となり、現在では、南信州の自然や産業、生活、文化、スポーツ等々に関する本物志向の体験プログラムを約180種類、教育旅行では年間延5万名が利用するまでに成長している。
これまでも、地元のガイドつきプログラムを一般募集企画ツアーとして実施してきたが、2012年には、企業や組織向けに「心と体を動かす体験型企業研修プラン」を実施しており、今後は企業をターゲットとした滞在型観光ツアーの開発に力を入れていく予定である。