2015年2月14日
【実施報告】2014年度 大学・地域連携研究会 開催報告(龍谷大学)

■ テーマ: 大学と行政の連携が拓く地域課題解決プロジェクトの可能性と課題
■ 日 時: 2015年2月14日(土) 13時30分~17時30分
■ 場 所: 龍谷大学深草キャンパス 22号館204教室

 開催目的

 文部科学省「大学間共同教育連携推進事業:地域資格制度による組織的な大学地域連携の構築と教育の現代化(2012年度採択・龍谷大学代表校分)」は、京都府下9大学が連携し、地域課題の解決に大学が取り組む仕組みを教育課程に埋め込み、新しい大学教育の創出に取り組む事業です。2013年度から本事業に基づいた地域課題解決への本学の取り組みが本格化し、2014年度には、各連携大学において、地域と連携した実践的教育プログラムが開発され、大学の成果としての実施されるに至りました。本研究会では、こうした地域との連携による教育プログラム開発を通じて、大学が地域の協働パートナーとなり、地域課題解決に資する大学と行政の連携のあり方を探ります。

研究会プログラム

第1部: 特別講演
  13:30~14:30 「地域再生の経済学」
    神野 直彦先生(地方財政審議会・会長、東京大学名誉教授、龍谷大学客員教授)
  14:30~14:45 質疑応答
  ※休憩(15分)※

第2部: 地域・大学連携の実践事例報告
  15:00~15:20「龍谷大学初級地域公共政策士資格プログラム開発の現状と課題」
    只友 景士(龍谷大学政策学部教授)
  15:20~15:40「守山市における取り組み事例」
    坪内 稔夫(守山市役所 地域振興課)
    吉野 誠(守山市役所 協働のまちづくり課)
  15:40~16:00「市民協働と大学連携事業」
    芦田 直也(福知山市役所 市長公室企画課)
  ※休憩(10分)※
  16:10~16:30「京丹後市域学連携事業の取り組み」
    松下 幸弘(京丹後市役所 農林水産環境部農政課)
  16:30~16:45「CUANKA京都府北部地域での取り組み進捗報告」
    牧野 和人(一般社団法人京都府北部地域・大学連携機構)
  16:45~17:30 意見交換

第1部: 特別講演「地域再生の経済学」
神野直彦氏(地方財政審議会・会長、東京大学名誉教授、龍谷大学客員教授)

 本講演では、地域再生と大学の役割を、人口減少を軸にお話しいただいた。 
 人口減少は、いつの時代でも生じており、国民に危機意識をもたらせている。日本では、1938年に人口増加率が鈍化傾向となったことを契機に、翌年、当時の厚生省が「結婚十訓」を発表した。1941年1月には「人口政策確立要綱」を閣議決定し、多産奨励(1夫婦の出産数を平均5児)と女性の勤労動員を求め、1960年の人口達成目標を1億人と設定した。1968年、日本の人口は1億人となり、1夫婦出産数2児を推奨することとなった。

大学地域連携研究会01 大学地域連携研究会02

  なぜ、人間は人口になるのか。人間は、労働手段になると人口になる。人口は、工業化で爆発し、脱工業化で減少する。工業化時代における日本の人口は、1961年の65.1万人をピークに地方圏から三大都市圏へ移動した。1974年になる頃には、人口移動が小さくなった。しかし、1985年から地方圏から東京圏のみに人口移動したものの、1994年に地方圏が初めて転入超過した。2000年からは、地方圏のみならず、大阪圏や名古屋圏から東京圏への人口移動が続いている。21世紀からの動きは、工業化時代と比較し、人口移動の規模が小さい点や、地域間で所得が平均化されている点が異なる。東京の本社機能を強め、地方の本社機能を弱める。関西圏も地方と同じ扱いとなり、流出となっている。こういった産業構造の変化がある。今後は、人間の知恵をいかに媒介し、人間のアイディアを研究に活かしていくことが重要となる。人々は、ここで生活したいと思わせると人が集まる。これは、地域づくりであり、まちづくりである。ここに工場を作りたいというまちづくりではなく、人が生活したいと思わせるものにしなければならない。
 自然資源多消費型の大量消費は、限界となっている。熱力学の法則では、第一法則が「エネルギーの量は一定である。生産も消費もすることはできない」、第二法則が「エネルギーは条件により、仕事の能力や質(エクセルギー)に差異がある」と定義されている。「量」から「質」への転換は、人間の知識によってである。量を重視すると、地球が戻れなくなってしまう。そこで、人間の知識を生産する共同体として、大学の役割があるのではないか。脱工業化への地域再生は、環境と文化による「地域再生」として、生産機能の「磁場」から生活機能の「磁場」へ転換したものである。大学は、学び合いの共同体を目指し、その中核を担う。新しい産業づくりは、人間の資源を知識に持ってくるものであり、大学と連携し、新しい地域づくりを地方公共団体と連携して作っていくのが大事である。

第2部: 地域・大学連携の実践事例報告

「龍谷大学初級地域公共政策士資格プログラム開発の現状と課題」
 只友景士氏(龍谷大学政策学部教授)、大石尚子氏(龍谷大学地域協働総合センター)

 高等教育機関の使命は、従来、①教育と②研究に置かれていたが、加えて③社会連携(社会貢献)が重要視されている。大学の社会的関与による課題解決が求められている。大学間共同教育連携推進事業では、地域公共政策士資格制度のフレーム構築に取り組んでいる。龍谷大学では、「初級地域公共政策士」資格プログラム開発の中で、アクティブラーニング要素を含む講義を開講している。政策実践・探究演習では、4つの目標と、政策学部の特色としての目標を掲げ、7つのプロジェクトが動いている。

1.福知山市プロジェクト「市民の声を聞き、市民の声を形にする!福知山市政策マーケティング手法の開発と骨太の地域づくり参画プログラム」
2.守山市プロジェクト「話し合いがまちを変える!守山市市民参加と協働による骨太の地域づくり参画プログラム」
3.深草小学校プロジェクト「学校連携による地域学習について考える~深草小学校の総合的な学習の時間のカリキュラム開発プログラム」
4.伏見区ふれあいプラザプロジェクト「地域イベントと地域コミュニティについて考える~伏見ふれあいプラザ企画・運営プロジェクト」
5.伏見区投票率向上プロジェクト「伏見でセンキョを考えよう・伝えよう・盛り上げよう!」
6.洲本プロジェクト「グリーン&グリーン・ツーリズムの構築による洲本市の地域再生」
7.京丹後プロジェクト「京丹後市五十河地区における複線型地域再生」

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 講義では、自省する習慣を身につけるために、毎回の振り返りシート、事前学習レポート、事後学習レポートによるしつこいほどの学びの振り返りをおこなっている。振り返りシートでは、知識、技能、能力に重点を置いている。

「守山市における取り組み事例」
 坪内稔夫氏(守山市役所 地域振興課)・吉野誠氏(守山市役所 協働のまちづくり課)

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 守山市では、平成24年度から協働のまちづくりとして、地域住民主体の活動や話し合いに取り組んできた。平成25年度からは、「守山まるごと活性化」プロジェクトを立ち上げている。この取り組みは、地域の人たちが主体となり、市内7つの学区、それぞれの地域を活性化するための必要な具体策を盛り込んだ「守山まるごと活性化プラン」が策定され、平成26年度から実現に向けての検討や活動がスタートした。このプランは、歴史、自然、生活など地域にある「たからもの」を活かした魅力的なまちづくりを、地域が主体となって行政と連携をしながら進める指針として策定されたものである。守山市と龍谷大学は、市民参加と協働のまちづくり推進会議、ファシリテーター養成講座、PBL科目(守山まるごと活性化プラン、市民懇談会への学生参画)で連携した。

「市民協働と大学連携事業」
 芦田直也氏(福知山市役所 市長公室企画課)

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 福知山市では、2年連続の豪雨災害に見舞われ、市街地浸水、床上下4,000件の大災害となった。災害の中で、京都府や府内全市区町村から2700人の自治体職員が送られ、大学教員や学生も一緒になり、3週間で片付けが終わった。大学との関わりでは、大学の研修、JICAの視察、OECDで報告など、様々な機会を与えていただいた。100人MTでは、3550人から無作為抽出された100人が3日間議論をした。スイーツを食べながらアイスブレイクし、昼食を一緒に食べ、午後から本題に移った。平成21年から富野先生を通じて龍谷大学との連携し、合併後のまちづくりに携わっていただいた。平成25年からは、市民ファシリテーター講座を開き、100人MTが集大成となっている。

「京丹後市域学連携事業の取り組み」
 松下幸弘氏(京丹後市役所 農林水産環境部農政課)

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 大宮町五十河地域の人口は、500人から10年で460人に減少している。バブル時代、11戸の古民家を集めて一大古民家群を作ろうとしたが、バブル崩壊で3戸のみを集めるのにとどまった。龍谷大学は、歌仙検討委員会に学生オブザーバとして参加を始め、地元との意見交換、留学生を招いたイベントを実施し、地域連携に変化が生まれてきた。住民側は、女性グループの設立、既存施設の有効利活用の意見活性化、地域間交流の緩和があった。京丹後市では、担当者の意識改革、行政の壁を崩すことが期待できる。今後は、継続性、地域リーダーの育成、地域に拠点を作ることが課題となっている。

「CUANKA京都府北部地域での取り組み進捗報告」
牧野 和人氏(一般社団法人京都府北部地域・大学連携機構(CUANKA))

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 京都府北部地域の取り組みは、2011年に一般財団法人 地域公共人材開発機構(COLPU)のパイロットプロジェクトとして、「次世代リーダー育てるプロジェクト」、「中丹消費者動向調査」、「エコ観光プロジェクト」、「バリアフリー観光」の4事業が展開された。2012年4月、一般社団法人京都府北部地域・大学連携機構(CUANKA)が設立され、準備期間を経て、10月に活動を開始した。2014年からは、戦略的プロジェクト創生会議を立ち上げ、「仮想的大学地域連携キャンパス検討部会」、「職員研修システム検討部会」、「ユニバーサル観光検討部会」が動き出している。