テーマ:「地域再活性化のためのスキル訓練環境」
「Skills and Training Ecosystems for Local Revitalisation」
-高齢化社会における雇用促進のための職業教育訓練(VET)と高等教育-
-International Innovations in Vocational Education and Training (VET) and the Post High School Education for Employability in an Ageing Society-
日 時:2013年12月12日(木)
会 場:京都産業大学むすびわざ館(京都市)
日本は現在、急激な少子高齢化や経済不況によって、これまでにない社会的経済的困難に直面しています。特に地方では人口と経済の衰退が著しく、経済の再活性化への新たなアプローチが必要とされています。本シンポジウムでは、京都において地域変革の担い手になるために大学改革を目指す「京都アライアンス」の取り組みを取り上げ、地域再活性化のためには、スキル訓練環境(Skills and Training Ecosystems)をどのように強化し、かつ、順応させることができるのか、をテーマに議論を深め将来への展望を描くことを目的として開催しました。
尚、本シンポジウムは、経済協力開発機構 地域経済雇用開発(OECD-LEED)プログラムによる「高齢化する労働市場と地域経済戦略」プロジェクトの一環として行われるものである。
冒頭、山田京都府知事、藤岡京都産業大学学長、マルティネス・フェルナンデスOECD LEEDプログラム主席政策分析官が開会の挨拶に立った。
山田知事は、京都が、日本の1000年の都として伝統と文化・学問・研究のまちであり、「人づくりのまち」でありながら、現在直面している問題として、大学と職業意識の乖離、定年を迎える高齢者の増加があるが、こうした人材をどう活用するかということにこのシンポジウムは大きなヒントを与えてくれるものと期待をしめした。
藤岡学長からは、京都では大学と地域の連携が進みつつも、地域の再活性化に資する人材育成をやりとげるかかが課題となっていることを強調した。
フェルナンデス氏は、本プロジェクトのキーワードとなっている「スキル」と「エコシステム」について説明を行った。社会全体を包括した教育環境を整えることで、持続可能なコミュニティに資するスキル開発や提供を可能にすることが述べられ、その上での京都府北部地域・大学連携機構の役割の重要性に言及した。
「地域再活性化に向けた地域公共人材大学連携事業の挑戦と高等教育における革新的取り組み」
まず、大学間連携共同教育推進事業の代表者白石教授、中谷教授より、京都の地域と大学の連携「京都アライアンス」の取り組みの報告があった。その後、井上宮津市市長から京都府北部の現状と自立循環型社会構築のための取組の紹介があり、京都市古瀬氏より、京都市における大学の重要性を説明した上で、今後市政として就職支援など進めていくことが報告された。また、エドワード・ブレークリーシドニー大学教授からは、海外事例として、大規模コンプレックス構築に果たした大学の役割と経済効果について報告があり、大学が地域再生の中心的役割を担うことが説明された。その後、龍谷大学石田教授を議長にディスカッションが行われた。
パネルディスカッションでは、アジェンダの3つの論点に沿って意見が交わされた。日本における問題点としては、職業スキルという物自体が明確でなく、体系的な職業教育訓練を積み上げていくシステムがないことが指摘され、能力を可視化するための学習アウトカムベースの地域資格制度が必要であることが説明された。また、スキル開発については、企業内研修は期待できず、大学での職業教育が必要となっており、そのためにはPBL(Project Base Learning)が重要であるとした。ブレークリー教授からは、大学における起業家精神の育成が必要であり、そのための環境整備が重要であることが指摘された。井上市長は、農山村の方こそ発展の可能性があることや、農山村での働き方を教育プログラムの中で教える点が重要ではないかとした。古瀬部長からは、教育と社会をシームレスにつなぐことを、行政としてどのように支援できるかを見出していきたいと考えると述べた。
質疑では、学生自身がPBLに関わったことによる変化をどのようにとらえているか、といった点や、就職の際にスキルやマインドがどのように重視されるかなどについて意見が交わされた。
グループA
「職業教育訓練の国際的イノベーションと地域経済、労働市場、雇用可能性の再活性化」(中谷報告)
グループAでは、「大学を含む教育機関と産業界の連携について」、ドイツ、オランダ、韓国、日本の事例が報告された。 ミュラー氏は、ドイツのDualシステムについて紹介され、労働市場のニーズに対応して毎年プログラムを刷新していること、そしてそのプロセスが、民間や州、或は社会的なパートナーの協力するシステムが構築されていることが説明された。トリースト氏からは、大学単独、或は企業や産業界のみで扱えない部分を担う社会連携組織としてのレジオ・レジスール・センターについての紹介があった。必要とされるのは、単なる知識教育ではなく、リレーションシップ・マネージメントであると表現された。高畑氏は、日本の雇用を取り巻く状況について報告し、欧州モデルと、新卒一括採用システム等の従来の日本の良さの両方を見ながら、一種のハイブリッド的なものを考えていくことを提言した。その形は、職業を意識した専門教育の実施を、4年生大学を中心として担っていく形にすることであるが、その際、企業や産業界、地域のニーズを大学が的確に捉えて、特に地域のニーズを意識してやっていくことが重要であるということであった。
ユーイキョー氏は、「韓国における青年層の雇用問題」について報告した。韓国で展開されているLINK(産学協力先導大学)を紹介し、官民をあげてLINKの事業が推進されていることを報告した。京都の企業側の報告として、土山氏が、グローバル化、インターネット時代に入り、業態変革の過程にある自社の経験より、こうした社会変化に対応するための基幹人材の課題を抱えていることをあげ、大学や高等教育機関への人材育成の期待を報告した。
ディスカッションでの議論では、応用教育/職業教育に大学がどのように取り組むかが論点であった。そこで最も重要となるのは、地域社会の中の信頼関係であり、企業−行政--大学の全てを結ぶ信頼関係の構築であり、これが地域的なエコシステムといえるのではないかとの結論に至った。
グループB
「地域再活性化に向けたスキル訓練環境を涵養する大学とコミュニティ間のパートナーシップ」
グループBでは、①大学とコミュニティ間のパートナーシプはどのような意味があるのか?、②どのように機能しているのか?について、具体的な議論が展開され、大学の役割が話し合われた。その中で、共通して話された点は、次の2点であった。
第1に、学生や学習者が、大学外に出てプロジェクト・ワークに加わるということが、新しい教育にとっても重要である。 第2に、企業や地域の自治体から、専門性の高いスキルだけでなく、ソーシャル・スキルも求められていることも確認された。
議論を通して、大学がプロジェクト・ワークを展開し、双方に意義のあるものにするために、大学は、ステークホルダーと互いに有意義な関係性をどう構築していくかが、大きな課題として課せられた。
こうした課題に対して、パネリスト各人の次のような報告は示唆を与えた。ウェスト氏より、「コミュニティの中でシェアするタイプの農業」というテーマフィールドを定めていく話があった。サンドキヴィスト氏からは、「地域側のスキル需要と大学のスキル供給との間のミスマッチ」についてデータ分析によって具体的に述べられた。シュカルスキー氏からは、「若者の起業支援が、地域課題解決につながる」ことが説明された。デュポン氏からは、「プロジェクト・ワークを大学地域連携で展開することによる大学側の変化」について報告があった。ヒュージェス氏は、「参加型のアクション・リサーチ」による大学地域連携の事例について紹介された。
以上、グループBの議論を通して、学生を客体と考えるのではなく、プロジェクト・ワークを実践する主体としていく考え方が重要であることが明らかになった。
Aグループ、Bグループについての報告の後、京都府福原氏より、なぜ京都府が大学政策に取り組むのか、また、どのほうに向かっていくのか、について話があった。少子化と高齢化に対抗するため、魅力的な人材が交流する大学の町を実現するための施策を進めており、その具体的取り組みとして、京都晩ギャップイヤー、文部科学省のCOC(Centre of Community)事業等が紹介された。
次に、パネリストによるディスカッションが行われた。
司会のOECD東京センター所長の村上氏によって、以下のとおり議論は展開した。
まず、「より効果的な大学とステークホルダー間のパートナーシップを構築するためにはどうすればよいか」という問いかけには、大学自身が起業家精神を持つことの重要性が強調されていた。そして、起業家精神を育む教育として、現場に身を置くなど、学習の多様性の重要性が指摘された。人材育成のための世代間の知識伝承とはどういうものかという問いには、地域資源を利活用していく中で知識伝承が可能であることが指摘さされた。福原氏からは、北部地域においては、地域公共人材として若い人が恒常的に地域に入っていくような実例を作っていくことが重要との意見が述べられた。ブレークリー氏からは高齢者が運営するコミュニティ銀行等、米豪での高齢者のスキル活用の具体的事例が紹介された。
OECD―LEEDプログラムプロジェクト責任者のフェルナンデス氏より、大学の役割の変化、地域の取り組み、このような改革をどう進めるか、といった議論が行われたが、海外からの実践的事例との比較で様々な含意を得ることができ、すばらしいセッションとなったことが述べられた。京都府の課題は非常に多様であり、京都アライアンスは、これにどのように取り組むことが出来るか、これからプロジェクトとしては、ここで学んだことをレポートに取り組み、政策的提言に向けて分析を進めていくとの説明がなされた。白石氏からは、セッションの中で、多くの学びと新しいパートナーを得ることができ、ブレークリー氏が紹介した「プラアカデミック」な大学組織の考え方に触れ、今後、社会変革のインキュベーターとしての大学のあり方を模索しつつ、京都アライアンスの取り組みを進めていきたいと述べられた。最後に改めて、OECD-LEEDのクリスティーナ・マルティネス・フェルナンデス、パネリスト、参加者への謝辞が述べられ閉会した。
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以上