平成23年度からスタートした「地域公共政策士」は公共政策分野の新しい職能資格です。社会による質保証をめざして産官学民の協働で始まり、地域社会の課題に応える人材育成を推進してきました。資格創設から4年目を迎え、資格取得を目指す学生や社会で活躍する資格取得者が生まれています。本報告会では資格の成果を社会で共有し、より社会のニーズにマッチする人材育成システムの方向性を議論します。(以下、敬称略)
日本の大学の状況は、18歳以下の人口激減、大学への進学率55%という大学全入時代である。18歳時に大学へ入学することが多い日本の特徴を踏まえ、教育再生実行会議の第三次提言で、能動的学習、アクティブ・ラーニングについて言及されている。また地域の人材ニーズに応えていくことが重要である。大学の課題としては、社会人入学への対応、大学入試制度、職業能力への特化、という点で議論が行われている。文科省では、特に力を入れているのは、グローバル化への対応と、地域へ活躍する人を送り出すことである。例えば、入学直後に、長期の学外学習(ギャップイヤー)を組織的に行うところへの支援に力を入れている。京都は、学生として県外から府内へ入ってくる反面、京都以外で就職する人が多い。就職段階になると若い人が減っていく。それには志望業種がない、都会に出たい、地域に縛られたくない等の理由がある。大学生が地域に目を向けることが重要であり、ギヤップイヤー事業、大学のCOC事業の支援も新規に実施していきたい。京都はコンソーシアムのように地域性が強い取り組みがある。これに加え、大学間連携では、分野連携と地域連携の2つが考えられるが、今回は地域連携で取り組んでいるところに特徴がある。その中で、資格制度を創るという取組はそう多くはない。京都は、成美大学以外に北部地域に大学がない。そこにどのような支援をするのかというところまで考えているのが、この事業の特徴である。これは大学間の高等教育を非常によくするものと思っている。連携について大学同士は大変だと思うが、協力してくださる企業、地域の方がいるという恵まれた環境にあるということを意識して、前向きに取り組んでいただきたい。京都だけにとどまるのではなく、全国に発信していくことを期待している。
大学の第3の使命として社会連携があげられる、京都アライアンスでは、これに対し地域公共人材を育んでいこうとしている。地域公共人材大学連携事業としてスタートさせたこの事業を進めるにあたって、ともに取り組んでいくパートナーが増え、それらを京都アライアンスとして世界に発信していこうとしている。これには、(1)大学そのものが地域変革の主体になると考え、地域公共人材を育てる仕組みと一緒に提案しなければならない、(2)生涯学習が可能な教育の機会をどう作るか。職能資格のフレームワークをつくり、学校での学びとそれ以外の学びが積極的に交流する必要がある、(3)大学がいかに社会と連携するのか、といった指標があり、これら3つのモデルをつくっていきたいと考えている。これまで、連携大学の取組として、大学院から始め、学部資格までこぎつけた。資格のプログラム科目の具体的な内容については、各大学が考えるものとした。地域公共人材は次の3つの要素を持っていてほしい。(1)セクターを超えた関係を構築すること、(2)伝統的なものでだけではなく、新たな共通の価値や地域の営みを更新していくこと(3)市民社会セクターが成立するようにサポートする志向′性を持つことである。京都府内の現状として、ハイテク産業、伝統産業は京都市内に集中し、北部地域は、雇用の衰退が早い。これに対し、試行として京都府北部地域・大学連携機構を設立した。構造的かつ重層的な取り組みをつくっていくことを目指している。具体的に今準備を進めているものとして、1つは仮想地域大学連携キャンパス構想があり、もう1つは地域間、大学間の連携を基礎とした人材育成、教育、研修プログラムを考えている。
待賢学区には、待賢小学校があり、活動拠点となっている。待賢学区は、公園や銭湯など、子どもが遊べるスペースがないため、コミュニティ作りが難しい面がある。近年、空き家問題があり、マンションが建て替わり、新しい住民が増えている。待賢学区は、32の町内があり、学区の町内会の参加率が低く、平成23年4月にまちづくり委員会(有志9人)を設立、11月から新川ゼミも参加している。月に1度、ふれあいカフェをして住民の交流を促している。ヒアリングを行った結果、待賢学区には、(1)高齢化による地域活動の担い手不足、(2)地元住民とマンシヨン住民の関係性の希薄化、(3)50%を下回る町内会加入率があると考えている。その中で、活動テーマは、長期的目標を「町内会加入率の増加」に設定し、短期的目標は、地域の街づくりを担うような関係づくりを促すこととした。具体的には、特にマンション住民と課外活動やワークショップを行っている。活動を通じて、まちづくりは実践で初めて理解できることが多かった。学生ではなく、地域住民が主体となる活動が重要であり、マンション住民がいかに地域に出てくるかが課題となっている。新住民と地元住民をつなげる取り組みが重要である。まちづくり委員と学生の関係も良好となっており、NPO、自治体、学生等のネットワークも広がり、協働していければと考えている。新川ゼミが参入することで、委員がやってみたいことを助力することに繋がった。今後、周囲の人をさらに巻き込んでいきたい。
2013年に京都の八坂神社の東山地区、2014年には蹴上・南禅寺で、株式会社らくたびの若村氏より観光ガイド実習をしていただいた。目的は、(1)京都の観光を深めることであり、事前に観光場所を下調べし、本物の寺社仏閣を目の前にガイドを実践できるようになること、(2)人前で話す難しさと重要性を主観的かつ客観的に考えることができるようになることである。2か所を担当した上で、若村氏からアドバイスや改善点を受けた。また、学生同士が指摘し合った。第1回研修は、東山祇園周辺の6カ所をガイドで回った。第2回研修は、蹴上・南禅寺周辺は、6か所をガイドで回った。取り組みで得たことは、(1)相手の目をみて話すこと、(2)場は自ら作る、ということであり就職活動でも役立った。また、「伝えるガイドではなく、伝わるガイド」をすることが重要であると指導を受け、「準備」の受容性を実感した。今後は、大学ぐるみで外で話せる機会を増やしていってほしいと思う。
政策実践探究演習は、7つのプログラムで構成され、私たちは、守山・福知山プロジェクトに参加している。2つのプロジェクトの共通点は、市民による話し合いでまちを変えることをテーマにしている。滋賀県守山市は、男女共同参画条例の作成に繋げようとしており、学生がファシリテーター、補助として参加した。福知山では、福知山100人ミーティングで学生がファシリテーターとして参加した。「福知山らしさ」をテーマに話し合い、福知山市の第五次総合計画を作っている。事前に、きょうとNPOセンターでファシリテーター研修を受講した。取り組みを振り返ると、学びを生む学びであったと考える。まちづくりの視点を学ぶだけでなく、能動性、主体性を得ることができた。他の科目と繋がりを実感するとともに、実践的であった。大学の学びで、熟議、地域再生、協働、市民参画社会、ファシリテーター等を大学で学び、地域での学びで苦悩、伝える難しさ等を理解することで繁がりがあった。課題発見の気付きがあり、自らの課題を意識し、より主体的に能動的に探究心を持って活動することができた。学びの連鎖があり、学びの連鎖を生みだす態度をつくることができたのが、成果なのではないかと考える。政策実践探究演習は、地域に官学連携、大学間共同の素地になればよい。学びを深めていきたい。
林業を学ぶために京都に来た。林業をひろげる・伝えることが重要と思い、地域公共政策士を知り、離れるセクターをつなぐ人材に自分がなればいいと思った。林業をどう広げようか考え、林業の歴史展を企画した。ここに関わるセクターは、木材関係業、京都府、大学・技術センターの3つである。それぞれ素材の提供、歴史の提供、新技術の情報提供を行っている。3つのセクターを集めることによって、一般の方に林業がどう変わり、古いものがどう新しいものになるかを見せることができる。展示だけではPRで終わるので、興味を持ってもらった方にモデルツアーを実施する。山からユーザーに届くまで、立っている木が柱になることを知っていただくことが重要である。林業をあこがれの職業にしていきたい。実際に、特別講義を受講し、一番重要なことは自らの考え方を共有できたと同時に、林業を知らない方の意見をもらうことができた。
地域公共政策士を偶然知り、自らの主体性になるのではと考えた。地域公共政策士の取得講座は、講義の集大成ということを後から知った。先生方の講義は素晴らしかった。現在、高齢者人口は増加し、要介護認定者も増加傾向になっている。高齢者支援として医療介護があるが、心の支援が必要だと考えている。老を朗に、死を詩に、病を描に、笑顔に変換していくようにアクションしていきたいと考えている。そのために京都にある寺社仏閣、教会など豊かな地域資源との連携を考えている。喜怒哀楽を喜努愛楽に変えていきたい。地域公共政策士は、セクターを越えて活動できるポジションだと捉えている。
白石氏:前半は、学習者、大学の視点からの話だった。ここでは、地域公共政策士の人材を活かしていただく地域社会の側から見た、資格制度、役割に関する期待をテーマにディスカッションを進めていきたい。
青山氏:府立大学の大学院でキャップストーンを担当している。学部でも実施する動きがある。キャップストーンは、地域で起きている課題を具体的に議論することが大きな狙いであり、目標は、コミュニケーション力、人間関係の構築力、チームワーク、分析力、適応力を身につけることといった5つである。全米の経営者のアンケートで企業に必要な能力として挙げたものを目標としている。地域公共政策士は、5つのことができる人、それを養成する制度であると考える。成熟していないので、まだまだ発展させていく必要がある。
岡村氏:創業77年目の事務機器のディーラーである。自社ビルをリノベーションすることによって、いろいろな人が交差し、価値を生む場を提供している。人を活かしていくことで課題解決に向かうと考えている。企業側と教育でうまくいっていないのは、点数をとり、答えを求める教育と、自分たちで問題を発見していく必要が求められる企業の現場の問題である。人には、野球型とサッカー型があり、野球型は一球、一球指示を出せる。サッカー型は創意工夫で進めていく必要がある。企業には、サッカー型が求められる。地域公共政策士の、地域と結びついていく能力は、企業でも必要な能力であると考える。
芦田氏:豪雨災害という異常事態の中で、京都府、姉妹都市など全国から2700人の自治体職員にボランティアに入ってもらった。龍谷大学からも教員、学生にも来てもらい、3週間でがれきを一掃できた。これまで大学とともに「話し合い」を重ねてきた。普段から話し合いができていたところほど、復旧が早かった。行政からは話し合いの場を提供し、大学から話し合いのスキル、システム化を提供してもらったのが大きかった。話し合いをどう作っていけるかが、公共政策士、大学、自治体で深めていく必要があるかと考えている。
梅原氏:京都府の地域力再生プロジェクトは、自分たちで課題解決しようという取り組みを応援するものである。府とのプラットフォームを作り、政策立案段階から市民団体に入ってもらっている。100のプラットフォームで200の施策が生まれてきた。人材が非常に重要である。人材の山脈をつくる必要がある。平成21年にCOLPUが誕生し、京都府と連携し「京の公共人材未来を担う人づくり推進事業」を進めてきた。地域課題は沢山ある。地域のフィールドは、イノベーションが起これば持続していけるので、多くの人に地域に来てもらいたい。
里見氏:60万人の学生がいる中で、大多数は社会で活躍することを踏まえると、研究と教育の間を考える必要がある。京都は、大学、行政、企業がそれぞれにできることを意識しているのが特徴的である。こうした取り組みを全国のためにも進めてほしい。
白石氏:地域公共政策士資格を持つ人材の能力、役割について焦点を当てたい。社会で活躍できるパスポートにしたいと考えている。そのために何が必要か。
青山氏:指示をしないと進まない現状を打破したい。分析力の能力が要請される。何が課題かを把握するための調査、解決のための手段を自ら考える力が求められる。また、これから、社会に出た人が、資格取得のために大学院に戻る場合、チームワーク、分析力、適応力を重視する必要があるのではないか。PBLは、課題解決のスキルを身につけた上で、その能力を他の場所で応用できるようにすることが必要である。
白石氏:学士レベルの学生に社会的関与の意義を見出してもらうにはどうすればよいか。
青山氏:企業に勤めていても公共マインドは必要である。社会の現状を見定める力が重要。3回生になると就活一辺倒の姿を見て、公共マインドが必要だと考えていた。そういう教育ができればと考えている。
岡村氏:都会と地方、効率と非効率、数値化と非数値化、片方だけを追いかけてきた弊害が出てきている。地方、非効率、非数値化をどう変えていくかにかかっている。クリエイテイブであることが求められる。人口減少時代にあって数値化されないものを掘り起こしていけばまだまだやっていける。その中で、企業も社会性が重要になっている。共感されないとやっていけなくなっている。そして働く人にも公共マインドが求められる。地域に公共マインドをもってはいっていく人は、どこの企業でも必要とされると期待している。
白石氏:資格制度で公共マインFなどを可視化することには、どのような期待があるか。
岡村氏:資格が公共マインFの素養をもった人という可視化をされることはありがたい。そういう人を採用していくことが企業の可視化にもつながる。その上で、スキルの議論のみになるのではなく、人間力が求められると考える。
白石氏:北部地域では、人口減少、高齢化が進む中で、地域公共政策士の展開を考えているが、期待するものについて聞きたい。
芦田氏:総合政策は、農業、福祉、観光、商業、道路など全方位型だが、あらゆる場面で、地域公共政策士は活躍できることを感じている。課題を提供する場が市役所だと考えており、一緒に解決していこうという人材を求めている。地域と行政をつないでいく役割も非常に大きい。また、地域協議会制度を考えている、中学校区単位で、補助金を出し、公共マインドをもった地域をつくろうという取り組みである。地方創生の切り札となるのではないかと考えている。そうした点からも地域公共政策士に期待している。
白石氏:全方位型の施策を一自治体でできるのかを考えると、自治体間連携が必要かと考えるが、広域的なものについても助言をいただければと思う。
芦田氏:一つの市で完結するのは不可能である。だが、市町村レベルでもつながりにくい面もある。その中でCUANKAが立ち上がり、「夢まちづくり大学」では成美大学が場所を提供する。学びの場を共有することも重要な取り組みであり、それも大学の役割、力かと思う。
白石氏:公共員と地域公共政策士の関わりと、ギャップイヤーについてうかがいたい。
梅原氏:「京の公共人材未来を担うひとづくり推進事業」は、個人に焦点を当てていた。地域のコーディネートが必要とされるときに「半公半X」の取り組みをしてくれる人である。2014年11月から始まり、2人の方が公募で選ばれた。八幡市の男山団地、和束町で取り組んでいる。また、中高生が地域に関わるのは重要である。学生時代に地域に縁がある人は地域に帰ってきている。そういう機会を今後も作っていきたい。
白石氏:新しいキャンパス構想では、高齢者にも来てもらいたいと考えている。地縁的組織だけではなく、つながりを広げていきたい。cocの予算は非常に大きいが、大学がコミュニティの中でセンター的な役割をすることにどういう意義があるか、学ぶべき教訓などについて。地域公共政策士へのコメントもあわせて聞きたい。
里見氏:京都は、地域公共政策士を待っている地域だと感じた。マインドを持った人が活躍できるようにということでcocを行っている。地域を学ぶことを必修にしている、また、どういう人材育成をしたいかの目標を明確にすることを求めている。地域の人に開く形で大学の知が還元されることが重要だと考えている。今後、地域公共政策士が実質を伴ったものになることを期待する。
白石氏:志をもった人のネットワーキングが重要だと考えている。11月にシンポジウムを自主的に開き、横のつながりを確認された。そうした取り組みを並行して進めていきたいと考えている。京都の特殊な部分はあるが、それを他の地域にも一つのケースとして応用してもらえるようにするのかが重要である。
以 上