2014年12月30日
【実施報告】2014年度 OECD(GOV)-協働プロジェクト

2014年度 OECD(GOV)-京都アライアンス協働プロジェクト報告

 平成25年度より2ヵ年プロジェクトとして開始したOECDとの協働研究プロジェクトの一環として、OECD地域開発政策委員会への参加、および国際ワークショップ実施のため、フランス・パリのOECD本郡において出張業務を行った。京都アライアンス側からは、京都府、京都産業大学、NPO法人グローカル人材開発センター、龍谷大学LORC、大学間連携共同教育推進事業(龍谷大学代表校)の代表者が参加した。その概要について、以下のとおり報告する。

1.地域開発政策委員会 「レジリエントな地域と都市」セッション

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スケジュール

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内容

セッション5では、「レリジエントな地域と都市」をテーマとした研究報告、プロジェクト提案がなされた。前半は、「高齢化社会における持続可能な都市開発政策」の最終報告として、コンパクトシティ化を進める富山市の事例について同市副市長からの報告があった。その後、その事例から、高齢化社会における経験の中からレジリエンスを発展させるために何を学ぶことができたか、国家政府は地方自治体の取組をどのように支援できるか等について議論が交わされ、レジリエンスの発展に必要なこととして、政策形成過程ににおける新たなアクターの参加、長期的計画の実施などが挙げられた。

 次に、新たな「レジリエントな都市および地域」プロジェクトの紹介があった。このプロジェクトは、OECDが提唱するレジリエンスのコンセプト(経済、社会環境、制度の4つの側面から構成される)をベースに、都市や地域にレジリエンスを高めるための政策提言を行うものであることが説明され、その事例報告として、京都府副知事より京都府の大学政策を中心とした人材育成の取組が報告された。

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2.「レジリエントな都市と地域」国際専門家会議

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内容

初めに、佐谷説子氏(OECD公共ガバナンス・地域開発局課長)が、OECDを代表して同日の会合の経緯を説明した。佐谷氏は、11月26日の地域開発政策委員会を受けてこの会合は新しいプロジェクトの初回会合となると述べ、26日の委員会の議論を説明した。また、プロジェクトは2016年OECDの報告書としてまとめることとなり、その内容は1)コンセプトの構築、2)京都を第1事例として、比較事例をヨーロッパ、アメリカからそれぞれ人つづつ選ぶ。3)政策提言 で構成されることとなり、2016年までに完成されるとの説明がなされた。開会

次に、白石克孝氏(龍谷大学教授)が、京都アライアンスを代表してあいさつを述べた。白石氏は、レジリエンスには様々な定義があるが、人材育成の観点からレジリエンスを再考したいとした。

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(2)セッション1――地域と都市にとってレジリエンスとは何なのか?――

セッション1では、佐谷氏の司会の下で、初めに基調講演と報告が行われた。

基調講演をしたRichard Ashley氏(Emeritus Professor, The University of Sheffield, United Kingdom)は、レジリエンスについて多様な定義や議論が行われている現状を踏まえて、それらを紹介した。これによれば、レジリエンスとは、必ずしも同一を維持することではなく、変化を管理することでもある。その際に、アイデンティティーを維持しながら回復することが重要である。また、都市や地域の対応は重要であるが、境界にとらわれて孤立してはならない。事後の対応より、事前の予防が重視すべきである。リスクは、脅威としてだけでなく、好機としてとらえることもできる。

次に、Laura Kavanaugh氏(Project Manager, ICLEI, Germany)は、ICLEIが考えるレジリエントな都市と地域について報告した。ICLEIは世界中の地方自治体によって構成された組織であり、持続可能な地方自治を目指している。ICLEIの8つの主題の中の一つがレジリエントな都市である。これによれば、レジリエンスの中軸は自然災害、気候変動、持続可能な開発と考えられる。これらを念頭に置いて、多様な利害関係者の連絡、研究者と実務家の連携、統一された地域データの収集、効率的な資源の活用、資金の調達、ガバナンスなどが重要である。

白石氏は、京都アライアンスの試みを紹介した。これによれば、地域への貢献を教育と研究に次ぐ大学の第3の任務ととらえ、大学、地方自治体、経済団体、非営利団体(NPO)などによって構成される京都アライアンスが組織された。そして、京都府南部には多数の大学がわるが、北部には一つしかないので、この状況を改善するため、京都府北部地域・大学連携機構(CUANKA)などの取り組みが行われている。

白石氏の報告を受けて、京都府北部の福知山市から出席した芦田直也氏(福知山市役所企画課課長補佐)は、2013年、2014年と2年続けて同市で起こった洪水の被害に市役所の職員として対応した経験について述べた。レジリエンスについての重要な論点の一つとして自然災害への対策も挙がっているが、芦田氏は、平時から住民間の関係が深い地域は復旧が早かったという所見を述べた。そして、市民の意見交換の試みとして、福知山市でCUANKAや大学の協力によって100人ミーティングを開催したことを紹介した。報告の最後に、白石氏は、自然災害を始めとするレジリエンスは、インフラストラクチャーにとどまらず、エンパワーメントや人材育成によって達成されると結論づけた。

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セッションでは続いて討論が行われた。Roman Szul氏(Professor, University of Warsaw, Poland)は、レジリエンスの概念は自然災害や金融危機などの多様な状況で用いられているが、これらの状況を合わせた同一の定義が求められていると指摘した。

Thorsten Wiechmann氏(Professor, TU Dortmund University, Germany)は、レジリエンスの概念は、あいまいであるがゆえに、皆が合意している側面があると指摘した。そして、環境学、心理学、経営学、都市計画の分野に言及しながら、定義の視角の一つとして、レジリエンスの概念はアクターが衝撃(ショック)を受けることと関連すると述べ、対策として予想できないことを予想できるように教育することを挙げた。

Cristina Martinez-Fernandez氏(Advisor, Knowledge Sharing Alliance, OECD)は、OECDが作成中の報告によれば、経済危機の影響を受けた地域において、持続可能な経済のためには、人口動態との関連など、労働市場の位置づけを見直す必要があることがわかったことを紹介した。

Katharina Schaaff氏(Advisor, Deutsche Gesellschaft für Internationale Zusammenarbeit, Germany)は、一都市が持つ資源のみではレジリエンスには不充分であるとして、部局を超えた、あるいは、――国、県、市などの――レベルを超えた、政府や地方自治体の間の協力が必要であると訴えた。また、都市計画やインフラストラクチャーなども、結局、人間が行うので、人的(ヒューマン)なプロジェクトであると指摘した。

(3)セッション2――人材におけるレジリエンス――

セッション2では、中谷真憲氏(京都産業大学教授)の司会の下で、初めに3件の報告が行われた。最初の報告者である中谷氏は、レジリエンスと大学の役割りについて述べた。レジリエンスは市民社会の概念と関わっており、自律性、生活の向上、人材の管理と育成などの要素が重要である。そして、地域における大学の役割りとして、垂直的には世代間の理解と技能の伝達、水平的には多様なセクターを結びつけることによる縦割り主義の克服が挙げられる。中谷氏は具体例として、地域公共人材開発機構(COLPU)、京都府北部地域・大学連携機構(CUANKA)、グローカル人材開発センターの取り組みなどを紹介した。

次に、Kitty Triest氏(Senior Advisor, RegioRegisseur, Netherlands)は、オランダのハーグにあるハーグ応用科学大学が地元の経済界に知識や技術を提供していることを紹介した。ハーグ応用科学大学は、文理両面の専門職教育を行う機関である。RegioRegisseurはハーグ応用科学大学の関連組織であり、大学と営利団体および非営利団体の橋渡しとなっている。これには、①大学と経済界の意向が一致しない、②財政的、事務的な障害――などの問題があり、成功には相互の信頼と積極的な関係の醸成が重要である。

最後の報告者であるLaura Fioni氏(Assistant Professor, École Polytechnique, France)は、フランスのエコール・ポリテクニークが行なっているアクティブ・ラーニングなどの取り組みを紹介した。エコール・ポリテクニークは、エリート層を対象とした科学技術教育を行う機関である。アクティブ・ラーニングに関しては科学研究チーム・プロジェクト、ビジネス・インターンシップ、研究インターンシップ、自己啓発インターンシップなどが行われており、多様な分野で最先端の研究や教育が行われている。これは卒業生の民間企業や政府への就職、大学院への進学などのキャリア形成に役立っている。

中谷氏は、3報告の共通点として、大学の実践的な教育が地域社会のレジリエンスを高めるのに有効であることを指摘した。

次にセッションは討論に移った。Szul氏は、今日の大学は、教育という伝統的な貢献が求められるだけでなく、政府、民間企業、ほかの団体に助言やインスピレーションを与えることが求められていると指摘した。

青山公三氏(京都府立大学教授)は、佐谷氏が提案した4要素の枠組みを京都府北部に適用して、同地域における現在の課題と将来の在り方を検討した。そして、これらの4要素に人材育成が重要であることを指摘した。

井崎重光氏(京都信用金庫壬生支店長)は、人材育成のために産・学・公の連携が重要であり、この観点から同社の榊田隆之・専務理事がグローカル人材開発センターの代表理事を務めていることを紹介した。そして、企業が求める人材として、コミュニケーション能力が高い人材、問題解決能力が高い人材、話を聞くことができる人材を挙げた。

セッション2の最後に自由な議論が行われた。初めに、セッション1におけるWiechmann氏の「予想できないことを予想できるように教育する」という発言に対して、Triest氏と青山氏から質問が出た。これに対してWiechmann氏は、教科書に載っている問題だけでなく現実の問題を考えることが重要であると答えた。

また、Martinez-Fernandez氏から日本の労働市場についての質問が出た。これに対して、中谷氏は、グローカル人材開発センターが短期大学と協力して女性の就業を支援していると答えた。また、白石氏は、若年層の間で地域に密着した職業への関心が高まっていると答えた。その上で、芦田氏は、大学が地域に介在することによって地域における話し合いが活性化すると答えた。最後に、中谷氏は、若い世代に出身地に帰りたがる人が増えているので、これを利用して、都市部の大学で得られた知識が出身地に持ち帰られて地域の活性化に生かされるようにすべきであるとまとめた。

さらに、佐谷氏から金融におけるリスクの評価についての質問が出た。これに対して井崎氏は、短期的な利益より長期的な利益を考えることが重要であると答えた。また、Kavanaugh氏は、資金の調達を複線化することによってリスクを減らすことができると答えた。

(4)閉会

佐谷氏が、①結論を出すには早いが、同日の会合から手掛かりが得られた、②すなわち、レジリエンスは変化と関わっており、悲観的にとらえられるだけでなく、チャンス(好機)ととらえられる、③そして、政府、地方自治体、大学などのアクターが重要である――とまとめて会合を終了させた。

 以上