2016年8月 9日
【コラム】第9回:中村 保ノ佳氏(龍谷大学大学院 政策学研究科)

龍谷大学大学院政策学研究科に在籍している中村保ノ佳さんにお話を伺いました。中村さんは、初級地域公共政策士(「環境政策基礎能力プログラム」「都市政策基礎能力プログラム」)を取得され、現在は、大学院で研究を進められています。また、学部時代から継続して「洲本プロジェクト」(龍谷大学「政策実践・探究演習」)に参加し活動をされています。

nakamura1.JPG(写真右:中村保ノ佳さん)

Q1.初級地域公共政策士資格を取得しようと思ったきっかけを教えてください。

 大学には、漠然と入学してしまっていたので、「そもそも政策学って何だろう」と気になっていました。同級生には、目的を明確に持って入学している仲間もいたので「追いつかないと」という思いを持っていました。

 政策学について深めたいと思っていましたが、どのように深めたらいいのか分からない状態でした。そんな時に、初級地域公共政策士資格の存在を知りました。政策学部の科目を受講して取得できる資格だったので、敷居が低く感じられ、挑戦してみようと思いました。

Q2.「洲本プロジェクト」では、どのような活動をされていますか。

 3回生の夏、所属していた白石克孝教授のゼミの活動として洲本市に入ることになりました。翌年から「政策実践・探究演習」という授業科目となりました。初級地域公共政策士の資格を取るには、アクティブラーニング科目の受講が必須になります。洲本での活動に継続して関わっていきたいと思ったので、7つのプロジェクトの中から「洲本プロジェクト」を選択しました。

 淡路島は、3市であわじ環境未来島構想の実現を目指しています。それは「農と食」「エネルギー」「暮らし」の三領域での持続を目指すものです。洲本市では、大学との連携を通して再生可能エネルギー(グリーン)と農漁業や地域文化(グリーン)を組み合わせたグリーン&グリーンツーリズムによる地域活力創出とあわじ環境未来島構想の実現を目指しています。洲本市は地域課題の解決、大学側は教育という目的があります。そのため、毎年受講生の希望を聞きながら、双方の話し合いにより活動内容が決定されます。これまでは地域の魅力マップの作成や、4世帯8人の小さな集落での小水力発電を設置するお手伝い、地域の将来についてヒアリングをし、地域の方々と一緒に考えることをしてきました。その過程を経たことで、地域が目指す方向に沿った企画が生まれました。例えば、小水力発電の電力を活用した音楽イベントは、これまでに2回開催されています。また、これまでの活動から新たな地域とのつながりもでき、プロジェクトを通じて新たな広がりが生まれています。

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Q3.実際に地域に入って、活動した感想について教えてください。

 正直に言いますと、リーダーをしていたこともあり、しんどいと感じることもありました。

もともと、思っていることを伝えることは得意ではないのですが、リーダーになると、グループのメンバーに情報を伝えることが多くあるので、気持ち的に苦しいこともありました。そんな時、様子を見ていた地域の方が気付いてくださり、声をかけてくれました。地域の方の温かさを感じることができ、それが励みになって取り組むことがました。

 実際に地域に入ると、講義を受けているだけでは気付けないことがたくさんありました。私自身は、苦手なこともあるけれど、責任感を持って行動できることに気が付きました。また、講義を受けているだけでは接する機会の少ない後輩の良さにも気付くことができました。洲本グループの後輩たちは活発で、地域の方へのアプローチも上手です。そんな後輩と自分を比べてしまいそうになることもありましたが、グループで活動していたからこそ、共に学び互いにいいところは見習いながら成長できたと思います。また周りを見て相手の得意不得意を見ながら、自分の役割を考えたり、自分を見ることができていることにも気がつくことができました。今までは意識していなかったことに気付くことができました。

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Q4.「洲本プロジェクト」では、どのようなことが学びになりましたか。

 自分がいかに「地域」を知らなかったかということに気付きました。それは、「洲本」という特定の地域を指すのではなく、人々が集まって、支え合い、励まし合い、笑い合うような暮らしのあり方としての「地域」の存在についてです。

 政策学部の授業では、「地域」「まちづくり」「活性化」「再生」という言葉をよく耳にします。テストでは、これらの言葉を並べて、きれいな文章を書いていました。しかし、今私が暮らしている地域では、お隣の方とはあいさつをする程度で、上の階や下の階にどんな方が住んでいるのか知りません。それなのに、こうした言葉を使っていました。

 もし洲本に行っていなかったら、「地域」という言葉は空虚なままだったと思います。「地域」について何も知らないということさえも気付いていなかったと思いますし、これまでのように地域の誰とも関わらない生活が当たり前になってしまっていたと思います。

 洲本プロジェクトでは、地域の方々が真剣に自分たちの暮らしや地域の人々、将来の子どもたちのことを考えて行動しているのを見て、私たち学生もそれをお手伝いしてきました。プロジェクトは今年で4年目になりますが、少しずつ地域が変化していると感じます。それを間近で見てきたので、「まちづくり」や「地域活性化」という言葉の中には、たくさんの人が関わり、行動や挑戦があり、気遣いや尊重など見えづらいところでの心の通い合いが含まれていることを学びました。だからこそ、これらの言葉を簡単に使いたくないと思いましたし、使うときには意味をしっかり考えて使おうと思うようになりました。これは私が洲本に入ったからからこそ学ぶことができたことです。